前回は温泉の泉質についてまとめてみました。
わたしはあちこちで温泉を飲む「飲泉」を試していますが、正直美味しくはないな‥。
と思うことが多いです。
飲泉をしたことがある人はわかると思いますが、
そんなにたくさん飲めません、という感じ。
温泉の水で水分補給するわけではないので、たくさん飲む必要はないけれど、
なぜわざわざ飲んでしまうんでしょう。温泉の味の違いは一体どこから来るものなのでしょうか。
今回は温泉の味について考えてみたいと思います。
そもそも味覚とは?
食べ物に含まれるさまざまな成分を味覚で感知し、「酸味」「苦味」「甘味」「塩味」「うま味」の5つの基本の味にわけて感じています。
口の中には、これら5つの基本の味ごとにそれぞれの味を引き起こす物質を感知するセンサーである味覚受容体が存在します。
味覚受容体は味を感じる細胞「味蕾」にあり、
口腔内で味蕾はおよそ数千個存在しています。
約2/3が舌に、残りが上あご、のどなどに分布しています。
舌だけでなく口の中全体で味を感じているということですね。
例えば、塩味を感じると受容体は食塩の成分の1つであるナトリウムイオンを刺激として塩味の知覚を引き起こします。
塩味受容体は糖分では刺激されないため塩辛く感じないということになります。
基本5味それぞれは刺激される物質が異なっています。
このことから温泉の成分ごとの味を考えることで温泉の味が推測できるかもしれません。
ミネラルごとの味
温泉は水であり、成分と言っても陰イオン、陽イオンと無機成分がほとんどです。
ごくまれに有機物が入っている温泉もありますが数は少ないです。
ミネラル成分ごとの味がわかれば温泉の味を推測できるかもしれません。
1、ミネラル分の味
飲む水として温泉よりも身近な水(ミネラルウォーター)では、硬度によって味が違うといわれています。
水の硬度はカルシウムとマグネシウムの量で規定されています。
カルシウム、マグネシウムだけでなく他のミネラル分や温泉にかかわりありそうなイオンについても、
一般的に言われている味についてまとめてみました。
ナトリウム(Na) | 塩味 |
マグネシウム(Mg) | 苦味、こく |
カリウム(K) | 酸味、キレの良さ |
カルシウム(Ca) | 無味だが相対的に甘味 |
鉄(Fe) | 鉄さびのような味、渋み |
ケイ素(Si) | 無味 |
塩化物イオン(Cl–) | 甘味、うまみ |
炭酸水素イオン(HCO3-) | 炭酸水素ナトリウム(重曹)は特異な塩味 |
硫酸イオン(SO42-) | 高濃度でピリッとした刺激感 |
ナトリウムや鉄分はありふれているので想像しやすいですね。
それ以外の成分は単体でとることは少なく、研究も盛んではないようなので参考程度に見てください。
2、pHと味
もう一つ関連があるのがpHです。
水のpHとは、水の性質を表すもので水に含まれている水素イオン濃度(H+)の量のこと。
一般的に、pHの値は1~14までで表され、7が中性で、それより少ないと酸性、多いとアルカリ性を意味します。
酸性が強いと「すっぱさ」を感じ、アルカリ性が強いと「苦み」を感じることが多いようです。
酸性の代表はレモン汁やお酢、アルカリ性の代表は石けんです。
(確かに石けん水が口に入ると苦みを感じますね。)
ここまでミネラル成分ごとの味の違いを見てきました。
実は温泉の成分分析表には味の記載があるのをご存じでしょうか。
「知覚的試験」と題される項目に書いてあります。
温泉の成分分析表にある味
成分分析表は鉱泉分析表指針にのっとって測定されています。
この指針によると、知覚的試験は温泉水の色、清濁、味、臭いについて、道具や試薬を使わず人間の目、舌、鼻という知覚で試された結果を表しています。
例としてこのような表現があります。
・「臭い」の程度と種類
微弱,弱,強等 / 無臭,土臭,泥炭臭,腐臭,硫化水素臭,亜硫酸臭,石油臭等
・「味」の程度と種類
微弱,弱,強等 / 無味,酸味,炭酸味,収斂味,から味,塩味,苦味等
組み合わせにより「無色澄明無味無臭」、「淡黄色澄明強塩味微石油臭」となることもあるそうです。
強そうですね~。
こういった表現は自分で温泉の味をメモする時にも使えそうです。
泉質による味の違い
ここまで単独成分の味について考えてきました。
では温泉の泉質ごとにざっくり味分けしてみたらどうでしょうか。
単純温泉 | 基準が湯温25度以上。成分について取り決めはないので、味はその他の成分含量による |
---|---|
塩化物泉 | 陽イオンがナトリウムの場合は食塩の成分のため味は塩味、マグネシウムの場合は苦みを含む |
炭酸水素塩泉 | 陽イオンがナトリウムの場合は重曹のことなので、味は苦みと塩味があり苦しょっぱい |
硫酸塩泉 | 基本無味、正苦味(せいくみ)泉と呼ばれるマグネシウム硫酸塩泉は苦み |
二酸化炭素泉 | 飲むとしゅわっとする温泉はよっぽど炭酸濃度が濃い温泉で、通常は少し苦みがある程度 |
含鉄泉 | 鉄さびのにおいと口の中を切ってしまった時の血の味 |
酸性泉 | 酸味があり、苦すっぱいという味 |
含ヨウ素泉 | うがい薬のイソジンに入っているのがヨウ素なので、うがいしたときのようなピリッとした感覚 |
含硫黄泉 | 硫化水素型は味よりにおいが特徴的で、いわゆるたまごの腐敗臭 |
放射能泉 | 放射能は味があるものではないので、味はその他の成分含量による |
以上のように、泉質や成分で味の傾向はだいたい予想することができそうです。
(わかるような、わからないようなという感じもありますが…。)
そして飲用に注意が必要なのは酸性泉です。
強酸性のpH2.9以下になるとそのまま飲むことはNGです。
必ず薄めて飲む必要があります。歯が溶けたり消化管を痛めてしまうことになるからです。
強酸泉で知られる秋田の玉川温泉はpH1.2!!
飲用では2倍に薄めてからさらに5〜8倍に薄めることを推奨しています。
初めて玉川温泉を知った時は、そんな胃液のような温泉に飛び込むなんて、と大いに驚いたものです。
さすが、玉川温泉は湯治客向けに看護師さんが常駐しているようなので、飲用するときは相談したほうがよいですね。
もちろん前提として、飲泉が認められている温泉で飲むことが必須です。
並べてみると私が飲んだことがあるのは塩化物泉、重炭酸泉、含鉄泉が多く、
飲んだことがない泉質も多いです。
今後まだ楽しめると思うとうきうきします。
温泉水の「まずさ」の向こう側
日本一まずいと自称している温泉があります。
それは新潟県の月岡温泉「手湯の杜」泉質は含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩泉です。
「硫黄の香りがして味は苦くてまずい」というのが飲んだ人の総評の様子。
「まずさ」はイコール温泉が濃いということにつながるので、ぜひ試してみたいです。
話は変わりますが、大学の授業でアミノ酸単体を混合してウニの味をつくってみるという授業がありました。
グルタミン酸〇mg、アスパラギン酸〇mg、グリシン〇mg・・・
アミノ酸の構成成分だけを足してもやっぱりウニにはなりませんでした。
温泉も基本の泉質プラスいくつもの微量元素が複雑に絡み合って味を形成しています。
「まずさ」の中の奥深さを味わっていきたいですね。